相続関連の業務や宅建関連のお仕事をする方々にとっては「あるある」ではないかと思いますが、昨今の日本の現状として、所有者不明土地というのが、土地の流通を阻害していたり、再利用のためのコストとなっている現状があります。
所有者不明土地とは、法務省のHPによると、次のような土地のことを言います。
- 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
- 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
何故このような所有者不明が起こってしまうかというと原因は、所有者が死亡し相続が発生したにも関わらず、相続登記が未了のままである場合と、所有者が引っ越し等により住所が変更となったにも関わらず、住所変更の登記が未了のままということが大きな原因となっています。
登記未了の原因として次のような背景があると言われています。
- 相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益を被ることは少ない
- 都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化 ・ 土地を利用したいというニーズも低下
- 遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加
特に相続に関わる我々士業の中には、土地共有者がねずみ算式に増加した案件を手掛けたという方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか?
では所有者不明土地が増大していることによりどんな問題が起こっているのでしょうか?
目次
所有者不明土地の問題点
- 所有者の探索に多大な時間と費用が必要(戸籍・住民票の収集、現地訪問等の負担が大きい)
- 所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多い
- 共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難
我々士業にとっても莫大な時間と労力がかかるのは勿論ですが、その他にも公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど、土地の利活用を阻害されたり、土地が管理不全化し、隣接する土地への悪影響が発生するなどがあります。
ひいては、高齢化の進展による死亡者数の増加等により、今後ますます深刻化するおそれがあり、所有者不明土地問題の解決は、喫緊の課題であります。
政府による法改正
以上の様な問題解決のために、令和5年4月以降に以下の法改正の施行が予定されています。
- 不動産登記法の改正
- 相続土地国庫帰属法
- 民法の改正
不動産登記制度の見直し
背景のところでも触れましたが、現在は、相続登記や住所変更登記は義務ではありません。それが所有者不明土地が増大している2大要因となっているため、登記がされるようにするための不動産登記制度の見直しが図られます。
例えば、相続登記で言うと、ある土地を自分の事業のために活用したいとする人がいたとして、その土地の不動産登記簿を取り寄せ所有者を調べたところ、土地の名義人が過去のままという事が往々にしてございます。つまり土地の名義人と実際の所有者が異なっていて、登記名義人の相続人が分からないため、所有者の探索に時間と費用が掛かり用地買収等が妨げられたり、登記名義人が死亡しているかどうかだけでも分かれば、事業用地を円滑に選定することができるとの指摘があったりします。
そのような相続に関する不動産登記情報の更新を図る方策として次の様な改正があります。
- 相続登記の義務化・・・不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。
- 登記名義人の死亡等の事実の公示・・・登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示する(符号で表示)。
⇒ 登記で登記名義人の死亡の有無の確認が可能になる。
また。相続登記の実行のハードルを下げるために、登記の手続きや費用負担を軽減する環境整備がされるようです。詳細については、法務省のHPをご覧ください。
もう一つの要因でもある住所変更登記ですが、現在、自然人・法人を問わず、転居・本店移転等のたびに登記するのには負担を感じ、放置されがちであるという現状があります。
そのような住所変更登記の更新を図る方策として次の様な対策がされるようです。
- 所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける(正当な理由のない申請漏れには過料の罰則あり)。
- 他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更登記をする新たな方策も導入する。
⇒ 転居や本店移転等に伴う住所等の変更が簡便な手続で登記に反映される。
相続土地国庫帰属法
また、不動産登記法の改正とは別に新たに相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設されます。
法の施行の背景として次の様な現状があります。
- 土地利用ニーズの低下等により、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える者が増加している。
- 相続を契機として、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不全化を招いている。
そこで相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されます。ただし、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件(詳細は政省令で規定)を設定し、法務大臣が要件を審査するようです。
相続で得た土地を手放し国庫に帰属させたい人は、国に承認申請をし、審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を支払えば国庫に帰属させることができるようです。
(参考)現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野約20万円、市街地の宅地(200㎡)約80万円
民法改正
また、所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策として、一部民法の改正が予定されています。
主な見直しは、以下の4点となります。
- 財産管理制度の見直し
- 共有制度の見直し
- 相続制度の見直し
- 相隣関係規定の見直し
財産管理制度の見直し
現行の民法でも不在者財産管理人制度や相続財産管理人の制度がありますが、現行の不在者財産管理人・相続財産管理人は、人単位で財産全般を管理する必要があり、非効率になりがちとの事から、個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設するようです。※ 裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任(裁判所の許可があれば売却も可)
また、所有者が判明していても、管理されないことによって危険な状態になることもあるため、所有者が土地・建物を管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、管理人の選任を可能にする制度を創設するようです。
共有制度の見直し
現在の民法の共有制度では、土地に重大な変更を加えようとする場合等には、共有者全員の合意を必要であったり、管理行為に関しては、過半数以上の同意を必要とします。仮に不明共有者がいる場合には、利用に関する共有者間の意思決定や持分の集約が困難となります。
そこで共有物の利用の円滑化を図る仕組みの整備がされます。
・ 裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設する。
・ 裁判所の関与の下で、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託により、不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みを創設する。
相続制度の見直し
相続制度においても現状の問題として長期間放置された後の遺産分割では具体的相続分に関する証拠等が散逸し、共有状態の解消が困難となっています。
そこで相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みを創設する。
⇒ 遺産分割長期未了状態の解消を促進する。 との事です。
相隣関係規定の見直し
最後に現状の相隣関係の規定においては、所有不明土地に水道管やガス管などのライフラインの導管等を隣地等に設置することについての根拠規定がなく、土地の利用を阻害している現状があります。そこでライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みも整備するとの事です。
以上、実務としてこれらの手続きに絡んでくる私共としては、非常にありがたい改正となり円滑な業務推進に資するものとなるようです。






