先日、面白い記事を見ましたので情報提供したいと思います。記事の内容は次の通りとなります。
目次
問題「テレビ番組でお宝発見!!」
テレビ番組を見ていると、30年前に友人に貸した掛け軸が映っていたので確認しようと友人に電話をすると、友人の息子が出ました。
「テレビに映っていた掛け軸は、30年前に私がお父さんにタダで貸したものだ」
というと、
「父は20年前に亡くなりました。あの掛け軸は父のものだと思っていたので、3年前に知人に売ってしまった」
と言います。
では売ってしまったのなら、掛け軸の金額を弁償してもらえますか?という質問になります。
皆様は、弁償してもらえると思いますか?
- 返還時期を決めていなければ時効にはならない。また、友人の息子が借りた物だと知らずに売ったとしても、弁償してもらえる。
- 友人の息子は、掛け軸が他人のものとは知らなかったので、責任はない。また、既に時効になっているので弁償してもらえない。
正解はどちらだと思いますか?
答えは下記となります。
使用貸借の法律的効果
相談者は、友人に無償で掛け軸を貸した。無償で物を貸し、借りることを「使用貸借」と言います。
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
今回の場合、貸した相手である友人が亡くなった時点で、この使用貸借が終了していると考えられます。根拠は、下記の第3項が根拠となります。
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
このため、所有者である相談者は、所有権に基づいて、掛け軸の返還を求めることができます。
また、所有権には消滅時効がありませんので、所有権に基づく返還請求権は永久に主張できます。したがって30年経っていても、相談者は友人に「返してくれ」ということができます。
しかし、今回は、所有権は既に掛け軸を買い取った人に移ってしまっている。なぜなら、掛け軸を買い取った人は、所有者でない友人の息子を所有者だと信じて購入したが、その信じたことに過失がない場合、掛け軸の所有権を取得できます。これを「即時取得」といいます。
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
※因みに、法律用語でいう善意・悪意とは、知らなかったか知っていたかを言います。善意=知らなかった、悪意=知っていたとなります。
これによって、相談者は掛け軸の所有権を失うことになり、掛け軸を買い取った人に対して、返還を請求することはできません。
しかし、友人の息子には勝手に掛け軸を売ってしまった責任があるので、相談者は、友人の息子から弁償してもらえると考えます。
答えは、1番の弁償してもらえるでした。
取得時効について
ところで、物の占有がこの問題のように使用貸借ではなく、自己の為に所有する意思をもって占有を始め20年間占有を続けた場合、占有者は、その物の所有権を取得することができます。
(所有権の取得時効)第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
これを時効は時効でも消滅時効ではなく、取得時効といいます。
取得時効の要件
「所有権」の取得時効の要件は、下記となります。
- 所有の意思をもっていること
- 「平穏」かつ「公然」であること
- 他人の物を占有したこと
1.所有の意思をもっていること
所有の意思をもって物を占有することを自主占有といいます。これに対して、不動産の賃借人がその不動産を占有するのは、その所有者として占有するのではなく、他人が所有する物であることを前提としてます。設問にある「使用貸借」もこれにあたります。このように、所有の意思をともなわない占有を他主占有と呼びます。
「賃貸借契約」や「使用貸借」のような原因で占有を始めた場合は、「他主占有」にあたります。
所有権の取得時効は、占有者が所有の意思をもって目的物を占有している場合、すなわち自主占有である場合にだけ成立します。
「自主占有」であるか「他主占有」であるかは、占有者の内心の意思がどうであったかは問われず、その占有取得の原因(権原)によって外形的・客観的に判断されます。
2.「平穏」かつ「公然」であること
所有権の取得時効の権原(占有取得の原因)は、正当であることは問われません。例えば、無効な売買契約であっても所有の意思は認められます。ただし、その権原が、他人から暴力的に奪ったり、隠蔽したり、盗取した場合は、「平穏」「公然」とはなりませんので、取得時効を主張することができません。
3.他人の物を占有したこと
他人のものには、「動産」「不動産」を問いません。
取得時効は、上記の「所有権」以外にも「地上権」や「地役権」、「不動産賃借権」も対象となります。
時効期間
取得時効の時効期間につきましては、「他人の物」であることを知らず、知らなかったことに過失もなく占有を始めた場合、つまり善意無過失の占有者は、占有から10年の経過をもって時効が成立します。
「他人の物」であることを知りながら占有を始めた悪意の占有者は、20年の経過をもって時効が成立します。
では、設問の様な場合で、父親が占有をしていて亡くなり、その後に子が占有を相続した場合などで、父親は悪意だけど子は善意といった場合は、10年になるのか?それとも20年となるのかどちらになると思いますか?
答えは、占有の開始時によって判断します。
父親が悪意であった場合は、子が善意でも20年間の経過が必要となります。
逆に父親が善意無過失で、子が悪意であったとしても占有開始時に善意無過失ですから、10年間の経過をもって時効成立となります。
勿論、占有期間は、自分の前の占有者(父親の占有期間)も併せて主張することが出来ます。
さて、取得時効が成立した場合は、所有者に対し「時効の援用」をし、不動産であれば登記を備えなければ時効完成後にその所有権を取得した「第三者」には、対抗することが出来ません。
そして「取得時効」の効力は、その起算点にさかのぼります。つまり、占有を開始したときに遡って所有権を取得したことになります。
ところで、何故今回この記事と「取得時効」についてを絡めてブログにしようかと思ったのは、記事にある父親の「他主占有」を権原とする占有であっても、相続により占有を継承し、占有の性質が「他主占有」から「自主占有」に変更した場合には時効取得できる場合があると思ったからです。
その変更の方法としては、下記のことが考えられます。
- 占有者が自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示する場合
- 新たな権原によってさらに所有の意思をもって占有を始める場合
例えば、相談者の息子が「代理人」と偽って、友人の子供と掛け軸の売買契約を締結していた場合など「新権原」に基づいて自主占有をを始めた場合です。
あまりそのようなことは考えずらいですが、上記の様な場合であれば取得時効もありかなと思います。
大変参考になりました。ありがとうございます。
質問なんですが
相続した息子は父親の立場を引き継ぐので
所有権も引き継ぎ、元々の持ち主による所有権による返還請求を拒まめないと思いますが
そうすると
息子は何年所有していても
取得時効は成立しないんでしょうか?
参考になる事例で勉強になりました。ありがとうございます。
下記ご教示頂きたいのですが、取得時効に対抗するために、相談者は掛軸の他主占有を立証しないといけないと思いますが、(占有者は自主占有をしているものと推定される。186条1項)
30年前の使用貸借(他主占有)であった事ををどのように立証するのでしょうか。
お問い合わせありがとうございます。
民法186条1項は、自主占有であると「推定」される。とあります。物を支配しているという事実を一応正当なものであると推定して、占有者の証明責任を軽減し、相手方に立証責任を転嫁しています。
この推定が覆される場合として、判例では、「占有者がその性質上所有の意思ないものとされる権限に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常は取らない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的・客観的に見て占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情が証明されるときは、占有者の内心に意思いかんを問わず、その所有の意思は否定される」とあります。
つまりこの記事の例では、前段の性質上所有の意思ないものとされる権限に基づき占有を取得した事実(使用貸借)を証明として、相談者としては、どういう時系列で、どのような取り交わしをし、掛け軸を貸したのかを証拠を交えて(あるいは証拠がない場合は、書証や第三者の証人等に協力をいただいたりし)、裁判上で主張することになるかと思います。