事務管理について

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民法には、良かれと思って他人のためにお節介をした場合の法律の規定があるのをご存知でしょうか?

例えばですが、

隣人のAが長期の海外旅行に行って留守にしている間に、A宅の窓ガラスが突風で割れてしまった。天気予報によると、大雨が降るかもしれないという。もし、そうなると、家具がびしょ濡れになることは明らかなため、代わって修理をした。或いは、ガラス屋Cに頼んで応急修理をしてもらい費用がかかったとします。旅行から帰ってきたAは、いらぬお節介であったと言ってこの費用の支払いを拒否できると思いますか?

他の例で言うと

道端で行倒れになっている人(A)を見つけたので、タクシーで近くの病院に運び、ポケットの中にあった免許証から名前が分かったので、Aの名前で治療の契約を結んだ。意識を取り戻したAは、タクシー代や治療費の支払いを拒めるでしょうか?また、Aと病院の間で結ばれた診療契約は、代理権の与えられていない無権代理による無効な契約となるのでしょうか?

事務管理

民法は、他人の事務を管理することを事務管理と呼び、上記のようなお節介を法律で規定しています。

事務管理の要件

民法が定めている事務管理の要件は次の4つになります。

  1. 義務なく
  2. 他人のために
  3. 事務の管理を始めた者が
  4. 事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法で、また本人の意思に従って事務管理をすること

となります。

「義務なく」とは、本人との関係で、法律上の義務が存在しないこととなります。委任契約等があれば、事務の管理は契約上の債務にあたり、親権のような法律上の地位があれば子の事務を管理する義務が生じるので、どちらも事務管理にはあたりません。

「他人のために」とは、他人のためにする意思があることとなります。

「事務の管理を始めた」とは、他人の事務の管理を始めることを言い、その者を「管理者」と言います。

また、管理者は、本人の意思を知っていたり、又は推知することができる場合は、その意思に従うことが要件となります。そして本人の利益や意思に反することが判明すれば、管理は継続してはならない旨が規定されています。

管理者の義務

事務管理の要件を充たして他人の事務の管理を始めた者(管理者)は、「本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければなりません」自分で始めた以上最後まで責任を持ちなさいと言う規定になります。

ただし、本人の意思や利益に反することが明らかであるときは管理を中止しなければなりません。

その他に、管理者には、本人への通知義務、事務処理状況や経過・結果の報告義務受取物引渡し取得権利移転の義務、金銭消費の場合の利息支払い等の義務が生じます。

緊急事務管理

では、例えば上記の行倒れの例で、行倒れの人が腕に怪我をしていて出血しているので、服の袖を破いて応急の止血をしたが、その衣服の毀損について管理者は、賠償義務を負うでしょうか?また、車が来るのに気づかずに道路へ侵入した人を救うために、その人に飛び掛かって押し倒して車を避けたが、その人がそれによって怪我をした際は、管理者は、賠償義務を負うでしょうか?

答えは、「本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは」管理者は、悪意または重過失がない限り、生じた損害について賠償義務を負いません。

本人の義務

海外旅行に出かけた隣人のAさんや行倒れのAさんは、管理費用に要した費用の償還義務を負います。すなわち、管理者自ら支出した修理代やタクシー代は、「有益な費用」として償還請求ができます。ただし、事務管理者に対する報酬支払い義務はございません。

事務管理の費用と報酬の判例

事例1 冬山で遭難し、負傷して孤立しているAを救助するために現地に向かった友人Bが、二重遭難にあって死亡した。Bの損害はどうなるのか?

 

遭難したAを救助に向かうことは事務管理であるから、それにかかった費用は、有益費として償還請求できる。もっとも、不相当に大規模な救助活動を展開した場合は、事務管理が成立する合理的な範囲に限定される。被った損害(遭難による死亡)については、事務管理は、もともと利他的行為であるし、頼んだわけでもないから、全部を賠償させるのは妥当ではない。かといって全く賠償しないのも公平ではない。そこで、公的保証でカバーされない部分について、相当額に限って有益費用として本人に転嫁できる。と解するべきだろう。

以上、事務管理の基本的な考えは、他人の事務を管理する義務はない。しかし、ひとたび他人の事務の管理を始めた以上は、依頼された場合と同様に責任をもって事務に当たらなければならない。その代わり、その費用は償還される。というものになります。

お節介をした以上は、最後まで責任を持つ義務が発生します。

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