備忘録のために記したいと思います。
今年の4月1日以降、相続登記の義務化が始まることに伴い、相続の相談が増えています。長い間、親が亡くなったにも関わらず、相続登記をしないままにしてしまうと登記懈怠で過料に処されてしまうからです。
当事務所においても、法務局の登記事務のみを司法書士事務所にお願いした上で、相続登記の仕事を受けております。
つい最近も相続登記をお願いしたいという方からの相談をいただき、仕事を受けることとなりました。
今回の相談者は、お父様が10年以上前に亡くなり、不動産の名義がそのままになっておられるとの事です。
不動産の登記事項を調べると亡くなられたお父様の持分が3分の2、ご健在のお母様の持分が3分の1となっています。通常であれば、亡くなられたお父様の持分について遺産分割協議をし、相続人に名義変更という流れになり、将来にお母様が亡くなられた際に改めてお母様の持分について相続登記をするという流れが一般的な流れになるかと思います。
しかし、相談者からは、お母様がご高齢といういうこともあり、近い将来に2度手間となるのであれば、現段階でお母さまの持分についても生前贈与というかたちで、相続人の一人に名義変更をしてしまいたいというご要望がありました。
勿論、相続分を遺産分割協議書、生前贈与を贈与契約書を経て、相続人の一人に名義を変更することは可能でございます。
ここで問題となってくるのは、相続の場合は、相続税の対象となり、生前贈与の場合は、贈与税の対象となり、相続と贈与では、税制が違ってきてその選択次第では、税金の課税が多くなるという問題がございます。
目次
相続税の基礎控除
相続税の申告は、通常、相続開始を知った時から10ヶ月以内に申告をしなければなりません。そして、相続税の課税額の計算は下記の通りとなります。
課税遺産総額(課税価格の合計額―遺産に係る基礎控除額)を各相続人の法定相続分で分割し「法定相続分に応ずる取得金額」を求めます。
遺産に係る基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
具体的には、法定相続人が3人であった場合、3000万円+(600万円×法定相続人3人)=4,800万円となります。
つまり、不動産・預貯金その他の相続財産の総額が4,800万円を超えない場合は、相続税がかかりません。
※因みに、相続税の申告は、相続人が個々に申告するのではなく、法定相続人全員或いは、受遺者含め共同で申告するかたちとなり、取得金額に応ずる税金額の算出となります。
贈与税の計算
一方で、贈与税の基礎控除は、一律で110万円となります。
そして、贈与により財産を取得した者(贈与を受けた年の1月1日において18歳(注)以上の者に限ります。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算については、特例贈与財産として特例税率が適用されます。税率については、下記の表の通りとなります。(国税庁HP引用)
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 |
400万円 以下 |
600万円 以下 |
1,000万円 以下 |
1,500万円 以下 |
3,000万円 以下 |
4,500万円 以下 |
4,500万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
例えば、2,000万円の不動産を親から贈与された場合は以下の計算式により贈与税がかかります。
贈与財産2,000万円ー基礎控除110万円=1,890万円
上記の表から、1,890万円×45%ー265万円=585.5万円
つまり、相続をきっかけとした財産移転であれば、登記が2回(登録免許税)に分かれたとしても、相続税は無税にもかかわらず、生前贈与であった場合、多額の贈与税がかかってしまうため、生前贈与を避けるべきではないのかという結論になりそうです。
因みに、無償で譲り受けた不動産の評価額については、どう評価するのでしょうか?という質問があるかと思います。
土地に関しては、国土交通省の発表している路線価となり、建物に関しては、固定資産税評価額となります。これに関しては、以前に記載したブログがあるのでそちらを参考にしていただければと思います。https://j-takagi-office.com/gyouseishosi/real-estate/
相続時精算課税
実は、贈与時点の受贈者のこの高額な贈与税を軽減する制度があります。相続時精算課税という制度になります。
贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに税務署に対し、相続時精算課税の申告をすることにより、特別控除額として累計2,500万円までの贈与には贈与税が課されず、それを超えた贈与に対しては一律20%を乗じた額が課税されるという制度になります。
そして、後に相続税が発生した時に贈与分と相続分を合算して相続税として支払う制度になります。
※贈与分については、相続時精算課税の際に申告した課税数字を適用します。
この制度の適用条件は、下記の通りとなります。
- 贈与者の要件・・・贈与年の1月1日時点で満60歳以上の者
- 受贈者の要件・・・贈与年の1月1日時点で満20歳以上の推定相続人であるもの
相談者の場合、生前贈与の不動産価格が、2500万円以下であれば、この制度を利用し、当面の贈与税はかからなそうです。そして、後の相続においても、法定相続人が2人となるため、他の相続財産と合算して4,200万円以下であれば、相続税もかからなそうです。
相続時精算課税の申告
では、具体的にこの制度を利用するには、申告が必要と言いましたが、次の書類等を税務署に提出する必要がありますので、参考としてください。(クリックすると書面が見れます)
2.相続精算課税計算書 第一表
4.受贈者や特定贈与者の戸籍謄本
不動産取得税
ここまで見ると、生前贈与をして相続時精算課税制度を利用する方がかなりお得になるかと思われますが、国税の他に都道府県民税である不動産取得税が課されます。
不動産取得税とは、不動産を売買や贈与、交換などで取得した場合にかかる税金となります。
税額は、取得した不動産の評価額(固定資産税の課税標準額と同じ)に税率を掛けて算出され、土地・住宅は3%、住宅以外の家屋が4%となります。
不動産取得税軽減税率
ただし、令和6年3月31日までに宅地等(宅地及び宅地評価された土地)を取得した場合、当該土地の課税標準額は価格の1/2となります。そして、ネットで調べる限り、軽減税率の措置は、令和9年くらいまで延長されるようです。
そして、不動産取得税は、取得から原則60日以内に都道府県税事務所に申告が必要となります。
相続調査を終えてみないとわかりませんが、生前贈与をした方が、相談者の出費も多くはなりそうです。しかしながら総税額を計算したところ、過大に差額がないという事であれば生前贈与にすることもありではないかと思われます。
ここまでお読みいただいた皆様にご注意ですが、相続税、贈与税等諸々の申告の代理は、税理士さんの仕事になります。僕ら行政書士の仕事は、相続に係わる必要書類の収集、贈与契約書や遺産分割協議書の作成、司法書士に委任しての相続登記完了までとなります。
もし検討されている方は、詳細については、税理士さんに相談いただくか、ご自身で挑戦してみるという事でも良いかと思います。
以上、備忘録のために記載いたしました。