今回は、行政代執行法について触れたいと思います。
例えば、テレビなどでもお馴染みのごみ屋敷問題や、空き家で壁が崩れかかって危険な状態にも関わらず、そのまま放置している家屋。
不法投棄により危険な廃棄物をそのまま放置している場合、又は禁止されているにも関わらず、河川敷に工作物を設置している例、違法建築物で行政から除却命令が出ているのにも関わらずそのまま放置しているなど市民生活に多大な悪影響を及ぼし、放置することが公共の利益を害するようなケースが多々あります。
上記のような公共の福祉を害する状況を除去するために法律に則り、行政がそのような状況を創出した私民に対し、除去命令や措置を講ずる義務を課すことがあります。
行政により義務の履行を課されたにも関わらず、市民がその義務を果たさない場合に、その義務をどのように確保するかという問題が存在します。
このような場合、大きく分けて①行政が自力で強制執行する場合(行政的執行)と②行政が裁判所に訴え出て、裁判所の助けによって履行を確保する場合(司法的執行)の2つがあります。
目次
1.行政による義務履行確保手段
行政上の義務が国民によってなされなかった場合に、履行された状態を作り出す手段として下記のような方法がございます。
①行政的執行
- 金銭債権・・・強制徴収
- 非金銭債権・・・行政代執行、執行罰、直接強制
②司法的執行
- 民事執行
などがあります。
行政上の強制徴収とは、公法上の金銭給付義務を国民が任意に履行しないときに強制的に徴収する方法で、国税徴収法の滞納処分に対し、行う手段になります。
執行罰とは、「非代替的作為義務」(他人が代わりに履行することができない義務)や「不作為義務」(行ってはいけない義務)の不履行に対し「過料」(金銭の支払い)を課すことを予告することで間接的に義務履行を強制することになります。
直接強制とは、義務の不履行に対し、直接に実力を加えることを言います。例えば、不法入国者の強制退去などです。
2.行政代執行
行政代執行とは、他人が代わってなすことができる義務(これを「代替的作為義務」といいます。)を義務者が履行しない場合に、行政庁が義務者に代わって義務を履行し、その費用を義務者から徴収する制度をいいます。
例えば、違法建築物について、行政庁が建築主に対して除却命令(壊しなさい、という命令)を出したにもかかわらず、建築主が相当の猶予期限を経過しても除却しない場合、行政庁は建築主に代わって違法建築物を除却し、それに要した費用を建築主に対して請求することができます。
ここで、違法建築物を壊す行為は他人が代わってなすことができる性質のものです。代執行の対象となるのは、本来の義務者以外の第三者でもなしうる義務、すなわち代替的作為義務に限られます。
法律の条文は下記となります。
第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
行政代執行の要件は、
- 法律又は行政行為による作為義務があること
- 代替的作為義務であること(他人が代わって履行することができる義務)
- 他の手段によっては、その義務履行が困難であること
- その不履行を放置することが著しく公益に反すること
になります。ですので、冒頭に例示した、ごみ屋敷問題や危険工作物、危険物の不法投棄等が行政代執行の対象となります。
3.代執行の手続き
行政代執行は、強烈に国民に義務履行確保のため権利を侵害するわけですから、その分、法律により厳密に手続きの方法の定めがあります。
流れとしましては、
- 「戒告」・・・相当の履行期間を定め、その期間までに履行されないときは、代執行を行う旨をあらかじめ文書で戒告する
- 「代執行令書」・・・指定した期限までに義務の履行がなされない時、行政庁は「代執行令書」を発し、代執行の時期、執行責任者、費用の見積額の概算を通知します。
- 「証票」・・・代執行の際には執行責任者は、自らが執行責任者である旨を示す証票を携帯し、相手の要求があれば提示しなければなりません。
- 「費用の徴収」・・・代執行に要した費用を国税徴収法の滞納処分の例により義務者から徴収します。
- 「危機切迫」の場合は、例外的に戒告や代執行令書による通知を省略できます。(廃棄物処理法19条の8等)
手続を踏まない代執行は違法となります。
ですが、テレビのニュースなどで代執行の現場を見たことがある方もいると思いますが、行政には、司法に訴えることなく独自に義務履行確保手段があり、その執行力たるや絶大な力であることを含みおきください。
そして、行政の裁量権の逸脱や濫用で争うには、非常に難しい現状があることをとなります。
以上、行政に関わる行政書士としての私見を述べさせていただきました。