昨日、テレビを見ていると興味深い番組がありました。
内容はと言うと、市川市のとある住宅地で、ある夜突然に住宅前の私道のど真ん中に自動車が放置されてしまったというもので、袋小路にある住民にとって放置車両があるために車の出入りもままならず、同じくその私道を利用する隣家においては、窓からの眺望を放置車両に阻まれてしまい、無粋な思いと迷惑を被っているとの事でした。
所有者が現れ、車両をどかしてくれるのを待つも、一向に現れません。
困った住民は、先ず警察に連絡をし、放置自動車を移動してもらおうと試みますが、放置してある場所が私道(私有地)のため、警察が介入することは出来ないと言います。
公道であれば公が所有者ですから当然ながら警察の権限で移動することは可能です。しかし今回の問題は私道の所有者と車両の所有者との間のことですから民事不介入の原則から警察が介入することは出来ません。
かくなる上で私道の所有者である住民が、自力で移動してしまってはどうでしょうか?
これも日本の法律では、不法放置車両であっても車両の所有者の同意がなければ自力救済(勝手に移動)は認められていません。万一、移動の際に車に損害を与えようものなら損害賠償を請求されてしまいます。
民法では、所有権の他に占有権というのを認めています。盗難品であっても盗品の所有者が盗品の占有者(盗人)から実力行使で盗品の回復をすることは認められていません。不法に放置された車両であっても車両の所有者には占有権が認められています。
仮に、無理やり奪い取っても占有物侵奪罪という刑法に抵触することになります。つまり、盗難されたとわかっていても必ず、お上(裁判所や警察)を通して返還を求めなければなりません。
話は戻りますが、このケースでは警察の協力は得られず、また自力で移動することもできないので、放置車両の所有者に対し移動を求めるほかないとの事です。
そこで警察に対し、放置車両の所有者を教えてくれと願い出るも(登録番号から所有者の割り出しは可能です)、個人情報のため教えることは出来ないと警察は言います。
そんなこんなで3ヶ月も無駄に時間だけが徒過し、困り果てた住民が、テレビ番組に救済を求めたという訳です。
番組では、若手の弁護士がこの迷惑行為に介入し、解決を図るという内容になっています。
番組のように弁護士が協力してくれて解決ができればよいですが、ではそのような機会に恵まれない被害者はどのように解決をすればよいでしょうか?
目次
所有権に基づく妨害排除請求
前段にも触れたとおり、今回のケースは刑事事件ではなく、民事事件ですから、警察を頼ることは出来ません。その上で放置車両所有者を相手取り、私道の所有権に基づく妨害排除請求を裁判所に対し提起しなければなりません。その場合、「放置車両の移動と損害賠償」を請求することになるかと思います。
その前段として、先ず車両の所有者を特定しなければなりません。その場合、車のナンバーの管轄陸運局に「自己の権利行使」を理由に所有者の明示を求めます。正当事由になりますので所有者を知ることができます。勿論、所有者を調べるためにかかった費用等は、損害賠償として所有者に対し請求していくことになるかと思います。
さて、裁判所に提起した後は、裁判となる訳ですが、相手が出頭し、対応してくれればそれに越したことはないですが、出頭してこなければ原告の請求が認められ、確定判決となるかと思います。確定判決に基づき、場合によっては強制執行で、車を排除し、その費用を車の所有者に弁済させるという流れになるかと思います。
労力と費用を考えると、割に合わない事件で、不法放置者には憎しみさえ生まれるかと思います。
ところで、この番組の様に自身の所有する私有地を侵害された場合は、所有権に基づき提訴することができますが、例えば、賃貸で借りている月極駐車場に、他人の車が放置されてしまった場合等はどうなるでしょうか?
占有訴権
我が国の民法では、所有権という物権の他に占有権という権利も認めています。
占有権とは、直接に物を支配する権利のことを言います。例えば、前段で触れた月極駐車場のように所有者は、別人であっても賃貸借契約という契約に基づき駐車場を支配しているのは借主になります。この借主の様な権利を占有権と言います。
占有者が同じように占有権を侵害された場合、占有訴権が認められています。
(占有の訴え)第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
(占有保持の訴え)第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
第二百一条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
所有者でもあり、占有もしている人が、妨害された場合は、所有権に基づくことも、占有権に基づくことでもどちらで訴えを提起する事が出来ます。
(本権の訴えとの関係)第二百二条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。