許認可における距離制限基準について

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酒屋の画像

距離制限基準

先日あるお客様から問い合わせをいただきました。

たばこ小売販売店営業の許認可について申請をしたが、「距離基準」に不適合のため不許可処分となったとの話しです。

実は、営業をしたいという業種によっては、「距離基準」と「人口基準」という規制が法律によって設けられており基準を充たさないと許可を受けることができませんので要注意となります。

冒頭のお客様につきましても、事業を開始するために立地を探し、店舗の賃貸借契約を締結し、内装工事等を進め、実際に費用も発生していることから計画変更も伴い非常に困った事態になっています。

「距離基準」「人口基準」とは?

「距離基準」

新設店と既存店の間に一定の距離を置くよう求められる基準となります。

「人口基準」

地域の人口当たりの免許枠を設け、合理的に業者数を制限する基準となります。


たばこの小売販売業に関しましては、「たばこ事業法」という法律によって規制されております。

法の目的・趣旨は下記の通りとなります。

この法律は、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

加えて、「未成年者喫煙防止法」のためにも規制が加えられています。

たばこ小売販売業の許可申請先は、財務省となり、申請書の提出は、店舗住所地を管轄するJTへの提出となります。その後、JTの現地調査を経て、約2か月程度で財務省の許可・不許可の処分が下されることとなります。

たばこ小売業の距離基準

距離の不許可基準は、予定営業所と最寄りのたばこ販売店との距離が、予定営業所の所在地の区分ごとに定められた下の表の基準距離に達していない場合となります。

(単位メートル)

環境区分/地域区分

繁華街(A) 繁華街(B) 市街地 住宅地(A) 住宅地(B)

指定都市

25 50 100 200 300

市制施行地

50 100 150 200 300
町村制施行地 150 200

300

つまり、東京都のような繁華街であっても、既存のたばこ店営業予定地近くに存在し、かつ25メートル以内にある場合は、要件を充たさず「不許可」となります。


薬局距離制限事件

ところで、この「距離制限」規制についてですが、実は、憲法第22条1項の「職業選択の自由」との絡みで過去様々な事件があり、「違憲」となったもの、「合憲」となったものがそれぞれあります。

憲法第22条1項は下記となります。

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

薬局距離制限事件」という事件において、Xさんが、薬事法に基づき薬局の営業許可を県知事に申請をしたが、距離基準の規定に適合しないという理由で不許可処分となりました。そのためXさんは、薬局開設の距離制限を定めた薬事法の規定は、憲法22条1項に違反するとして、不許可処分の取消しを求める訴えを提起しました。

結論

これに対し、最高裁判所は次の様な結論を導きました。

許可制は職業の自由に対する強力な制限であることから、原則として必要かつ合理的な措置であることが要求され、「国民の生命や健康上の危険を防止する」という薬事法の消極的・警察的目的の規制より緩やかな他の規制手段では目的を達成できない場合のみ合憲となる。

厳格な合理基準に照らし合わせて必要かつ合理的な規制とは言えないので違憲である

との結論となりました。今現在、薬局の距離規制は撤廃されています。

公衆浴場距離制限事件

では、同じように距離制限規制を理由に公衆浴場の許可申請が不許可となり、訴えた「公衆浴場距離制限事件」では、どうでしょうか?

結論

公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くことのできないもので、多分に公共性を伴う厚生施設である。

そして、もしその設立を業者の自由に委せて、なんらその偏在および濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用上、不便を生じかねないし、また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を悪化させ、ひいて浴場の衛生設備の低下等の影響を来たすおそれがある。

上記公衆浴場の性質に考慮すると、国民保健及び環境衛生の上から、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在および濫立が起こることは、公共の福祉に反するものである。

したがって、公衆浴場の距離規制は、憲法22条に違反するものとは認められない。

つまり、公衆浴場についてはその公共性からある程度距離基準を設けることは、合理的であり、個人の経済活動に対する法的規制も一定範囲で許されるとしております。

酒類販売業免許制度

今現在は、距離制限基準が撤廃されている「酒類販売業」ですが、以前は同じように「距離基準」が設けられていました。

酒類販売業は、たばこ小売業とは別で、「免許制」を取っています。ある程度人口基準を考慮しての制度となっています。

酒類販売業もたばこ小売販売業のように「酒税」や「たばこ税」といった税金賦課徴収目的が法律に内在しております。

つまり、税金の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家目的のための規制であり、合憲であるとの判断が下っております。

ですが、時代の経過とともに合理性が失われ、今現在は、距離制限の規制がなくなっています。


たばこ小売販売業につきましては、依然として距離基準が設けられています。

とはいえ、行政を相手取りその合理性を争うことは、非常に時間も費用も取られることとなりますので、営業をお考えの方は、やはり事前に我々行政書士等にご相談をいただくことが、目的達成のための近道となるような気がします。

 

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