日本は、土地が狭いため、土地と建物が別々に流通する制度となっています。ですので、建物はご自身の所有だけど土地は別の人の所有であるということが往々にしてあります。
他人の土地に自己の居住の用に供する建物を建てた場合、その使用権限は、2つに分類されます。
目次
Ⅰ.「地上権」と「借地権」
地上権によるもの・・・他人の土地に地上権(物権)を設定して土地の上の建物の使用収益をすること
借地権によるもの・・・土地の所有者と賃貸借契約(債権)を設定して土地の上の建物の使用収益をすること
両者の違いは、借地権は、債権であるのに対し、地上権は物権です。債権は、地主との契約ですので、物権に比べ権利が弱いこととなります。
例えば、借地上の建物の増改築や建て替え、譲渡・賃貸をしようとする場合、地主に対して承諾を得なければならないのが、借地権。
地主の承諾が不要なのが、地上権になります。
また、地代についても借地権は、使用収益する代わりにその地代を支払うことが契約の要件ですから、地代が当然に発生します。
対して、地上権は地代がなくても可能となっています。
つまり、地上権の方が権利としては強いよということだけ覚えておいてください。
Ⅱ.土地の抵当権が実行され、その所有権を失ったとき
序盤にも触れましたが、日本は土地と建物が別々に流通します。土地の所有者Aさんが自分の土地の上の建物の建築のため、その費用を銀行ローンを組み建物を建てたとします。
その借り入れの担保として、抵当権の設定は、土地だけに設定することもできますし、建物だけに設定することもできます。また土地と建物両方に抵当権の設定をすることもできます。
仮にAさんは土地に抵当権を設定し、建物を建てた5年後に、銀行ローンが払えなくなってしまい、銀行により抵当権が実行され、土地が競売に付され第三者に土地の所有権が移ってしまった場合、その建物に住み続けることができるのでしょうか?
その場合、土地の新所有者とAさんは相当もめることは必至ですよね!!
土地の新所有者からすれば、建物を撤去して明け渡して欲しいと思います。
Aさんにすれば、何とか住み続けたいと思うのが普通だと思います。
Ⅲ.法定地上権
実は、そんな時の解決方法を法律は定めています。
民法388条(法定地上権)
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
法定地上権が設定されるのは、次の場合のみです。
- 抵当権設定当時に土地と建物の所有者が同一の者であったとき
- 設定した抵当権の実行(競売)により土地と建物の所有者が異なってしまったとき。
つまり、上記の要件に当てはまるときのみ「法定地上権」が設定され、Aさんは建物に住み続けることができます。
では、上記要件に当てはまらない場合、例えば、土地に抵当権が設定された後に数年後建物が建てられたとき。あるいは、抵当権設定当時に建物の所有者が別の第三者で、その後建物をその第三者から購入したときなどについて
Aさんは、建物を取り壊し更地にして明け渡さなければならないのでしょうか?
Ⅳ.土地抵当権者の建物一括競売権
建物を建ててからわずか5年しか経っていないにもかかわらず、その建物を取り壊すのにも費用がかかり社会的な損害も大きくなりますよね。ということで、土地の抵当権者は、土地とともに建物を一括競売することができます。
一括競売する方が、土地の買い手を見つけやすく、また建物収去の問題も生じません。ただし、土地の抵当権者の優先弁債権の及ぶ範囲は、更地として競売された土地の価格分のみです。
では何故、上記要件に当てはまらない場合は、法定地上権が成立しないのでしょう?
例えば、抵当権設定時に土地が更地で、その後建物が建てられた場合、抵当権者(銀行など)は、更地の土地を評価して、金銭の貸し出しをしていることになります。
一般的に建物付きの土地よりは、更地の土地の方が使い勝手がよく売りやすいので、当然ながら評価が高くなります。それを見込んで抵当権の設定をしたので、Aさんを保護する意味はありません。
逆に抵当権設定当時に土地と建物があり同一の所有者であった場合は、そのことを知ったうえで抵当権を設定しているので、銀行を保護する意味はありません。
また、建物の所有者が共有だった場合や土地が共有だった場合はどうなるでしょう?
建物が共有だった場合は、土地が第三者の所有になることで、関係のない共有者の権利を侵害してしまうこととなります。ですので、法定地上権は成立いたします。
逆に土地が共有だった場合、他の共有者にとっても法定地上権がない方がメリットがありますので、法定地上権は成立しません。
ですので例えば、土地を購入し、土地購入に銀行から借り入れをし、土地に抵当権が設定された。建物の建築を当初から計画しておりその後建物を建てました。といった場合、将来返済ができなくなった場合は、建物も一括競売されてしまうということがあり得ます。
以前僕は、この一括競売の対策で住宅ローン相当分の生命保険(ローンの返済とともに逓減していくタイプ)に加入していただき、万一の時は、返済の原資を確保し、建物の所有を守るという保険契約をしたことがあります。
以上、法定地上権についてでした。