グリーフケアという言葉をご存知でしょうか?
グリーフ「grief」とは、身近な人との死別体験をした後の悲嘆心理(深い悲しみ)という意味だそうです。
そして「care」は、その悲しみから立ち直れるようそばにいて支援することになります。
妻の職場の上司の配慮でこの言葉を知ることができました。近年、我が日本においてもグリーフケアを広める動きがあります。
きっかけはある女性が、我が子を小児がんで亡くし悲嘆に暮れている中で、世間とのギャップを感じているところ、この「グリーフケア」に出会い日本にも広めようという動きになっているようです。(欧米では、既にこの概念は広まっているようです)
かく言う僕自身も一昨年の父の死、昨年の義母の死を経験し、身近な母の状態や義理の父の状態を見てきて感じるところがあります。
目次
1.知っておきたい遺族の心理状態
大切な人との死別後間もない方は、様々な症状に悩まされ「自分はおかしくなってしまったのではないか」と不安になるそうです。
例えば次のような例があります。
- 味覚がおかしくなる
- 他人の話が理解できない
- 眠れない
- 判断ができない
- 外出するのが怖くなる
そして、その症状に気づくきっかけとしては、次のような例があります。
- 葬儀社との打ち合わせの中で、少し複雑な問いかけに理解できない。聞き返しても人の話が理解できない。
- 役所や病院での手続きでぞんざいな扱いをされショックを感じた
- 周囲の人からの言葉や態度で傷ついた
冒頭に紹介した女性は、やはり周囲の次のような言動に傷ついたと言っています。
市役所
・どうして2歳の子供が死ぬのですか?と詰問され(死亡診断書を持っているのにも関わらず虐待死を疑われた)
・隣の人がびっくりしてこちらを見ていた
病院
・最後の入院費の精算の為に再訪問したところ、大声で「この5,000円は何かしら?」「ああ、死亡診断書ね!」と屈託のない笑顔で答えられぞんざいに扱われたことに傷ついた
周囲の人
・「早く次の子供を産まなきゃね」
・「あなたがくよくよしてたら、あの子も成仏できないよ」
・「いつまでも泣いてないで前向きにならなきゃ」
・相続の手続きが苦痛
・カウンターで死亡原因を尋ねられた
2.グリーフの行動及び症状
「遺族によく見られる反応」には、認知面まで含め次のような症状が1~2年も残るとされています。
心理・精神面の症状
恋慕の念、切望、抑うつ気分、不安感、恐怖、絶望感、罪責感、自責感、敵意、怒り、いらだち、現実感の喪失、願望充足的な幻覚や錯覚
行動面の症状
涕泣、号泣、社会的接触の回避、ひきこもり、アルコール乱用、アルコール依存、過活動、日常生活が困難になる、現実への逃避(仕事に打ち込む等)
身体面の症状
睡眠障害、浅眠、熟眠感がない、食欲低下、嚥下障害、頭痛、腹痛、動悸、呼吸のしずらさ、疲れやすさ、疲労感、故人と同じような身体症状
認知面の症状
思考判断力の低下、注意の障害、記憶力の低下、決断困難、思考制止(堂々巡りで同じことを考えて先に進まない)、故人が生きているといった錯覚や幻想
3.死別が引き起こすストレス
死別が引き起こす疾患は精神的な疾患だけではなく、肉体的な疾患も引き起こすようです。統計に基づくと下記のようなデータがあります。
うつ病疾患率
通常の罹患率:人口の3~7%
死別後7か月の遺族:23%
死別後13か月目の遺族:15%
心血管疾患での死亡率
55歳以上の男性が配偶者を失った場合、配偶者がいる男性に比べて死亡率が40%も上昇
自殺率
配偶者と死別した人の自殺率、30代男性12倍、40代男性6倍、50代男性3.7倍、60代男性2.4%、女性全年代で約2倍
4.遺族にとっての死亡手続き
遺族には、様々なやるべき手続きが課せられその死亡手続きは苦痛が伴う行為です。
死別直後の遺族は、おおよそ葬儀で疲労困憊にあったり、長期看病の場合は、蓄積した疲労があったり、急逝の場合は、調査や周囲からの詮索で疲労しているなど疲労状態にあることがほとんどです。
また、心理面においても、幸せそうな家族を見るのがつらかったり、人に会うことや外出がおっくうになったりします。
死別のストレス
とある機関のストレス評価尺度を示したものが下記となるようです。
| 配偶者の死 | 100 |
| 離婚 | 73 |
| 夫婦の別居 | 65 |
| 肉親の死 | 63 |
| 刑務所等への拘留 | 63 |
| けが・病気 | 53 |
| 結婚 | 50 |
| 解雇 | 47 |
死別は、人生最大のストレスとなり、精神的な支柱を失うだけでなく生活の急激な変化も伴います。
例えば、家事の担い手を失ったり、経済的な基盤を失ったりということが考えられ、かつ後悔や恋慕の念と闘うことにもなります。
5.死を受容していない遺族
相続手続きを行う遺族は、実はまだ死別を受容する前の段階にいるとのことです。
思慕や怒り、抑うつなどは、死後6か月あたりをピークに徐々に下降していきます。対して、死別の受容は、2年程度をかけて徐々に上昇していきます。
つまり、相続続きを行う死後数か月程度では、まだ受容する前段階にあり、にも関わらず手続きを強いられるので、苦痛を伴う作業となります。
6.悲嘆のプロセス
上智大学の教授であるアルフォンス・デーケンという方が提唱する悲嘆の12段階というのを紹介します。
1段階 精神的打撃と麻痺状態
愛する人の死という衝撃によって、一時的に現実感覚が麻痺状態になる(本能的な防衛規制)
2段階 否認
感情・理性共に愛する人の死という事実を否定する。「あの人が死ぬはずがない。きっと何かの間違いだ」という心理状態
3段階 パニック
死に直面した恐怖により、極度のパニックを起こす
4段階 怒りと不当感
不当な苦しみや悲しみを負わされたという感情から、強い怒りを感じる。「私だけがなぜ?」突然死の後では、強い怒りが突発的に噴き出す。
5段階 敵意と恨み
周囲の人や故人に対して、敵意という形でやり場のない感情をぶつける
6段階 罪意識
過去の行いを悔やみ自分を責める。「生きているうちにもっと○○すれば良かった」「あの時○○していれば」
7段階 空想形成
幻想・空想の中で、故人がまだ生きているかのように思い込み、実生活でもそのように振る舞う
8段階 孤独感と抑うつ
葬儀などが一段落し、周囲が落ち着いてくると、紛らわしようのない寂しさが襲ってくる
9段階 精神的混乱と無関心
日々の生活目標を見失った空虚さから、どうしていいかわからなくなり、あらゆることに関心を失う
10段階 あきらめ・受容
自分の置かれた状況を「あきらか」に見つめて受け入れ、現実に勇気をもって直面しようとする努力が始まる。
11段階 新しい希望・ユーモアと笑いの再発見
ユーモアと笑いは健康的な生活に欠かせない要素であり、その復活は悲嘆プロセスを乗り切りつつある印
12段階 立ち直り・新しいアイデンティティの誕生
喪失前の自分に戻るのではなく、苦悩に満ちた悲嘆のプロセスを経て、より成熟した人格者として生まれ変わる。
つまり、グリーフを克服するには、多大の段階と時間を要するとのことです。その初期段階では、出来事を自ら口に出すことも辛いこととなります。
特に僕は、人の相続にかかわることが多いことから、遺族心理への配慮を胸に刻みたいと思います。
そして、相続手続きという苦痛を仕事を通して、軽減できればと感じています。
6.遺族に接する注意点
記念日反応(アニバーサリー反応)
遺族によく見られる反応として故人の命日や誕生日、結婚記念日など故人に関する「特別な日」の前後に心身の体調を崩す遺族が少なくないということです。
遺族が、「記念日反応」を知らないことも多いそうです。この大切な日に声をかけていただくのは嬉しいことのようです。
思い出の共有
ついつい、遺族にとって故人の思い出話しは、「辛いことを思い出させるのでは?」と敬遠しがちですが、これは実は逆で、思い出話しをすると「あの時あの人はこうだった、私はこう思った」とまるでその人がそこにいるかのような幸せを感じるということで、思い出話は宝物であるとのことです。
自身の喪失経験からもこの「グリーフケア」に関する知識が得られとても良かったと思います。皆様にも共有したいと思いました。








