現在、入管法の改正が世間の間で話題になっています。事の発端は、従来の入管法に様々な問題や支障が出てきたためです。
どんな問題が発生しているのかについては、出入国在留管理庁のHPに詳細に記されています。
日本に限らず外国人を自国の社会に適正に受け入れ、自国人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会を実現することは非常に重要ですが、どんな人でも入国・在留が認められるわけではありません。当たり前ですが例えば、テロリストや日本のルールを守らない人など、受け入れることが好ましくない外国人については、入国・在留を認めることはできません。
そのため、日本では、法律に基づき、来日目的等を確認した上で、外国人の入国・在留を認めるかどうかを判断することとしており、入国・在留を認められた外国人は、認められた在留資格・在留期間の範囲内で活動していただく必要があり、その在留資格を変更したいときや、在留期間を超えて滞在したいときは、許可を受ける必要があります。
以上のように、日本では、在留資格・在留期間等の審査を通じて、外国人の出入国や在留の公正な管理に努めており、このように、その国にとって好ましくない外国人の入国・在留を認めないことは、それぞれの国の主権の問題であり、国際法上の確立した原則として、諸外国でも行われています。
目次
外国人の退去強制
日本に在留する外国人の中には、ごく一部ですが、他人名義の旅券を用いるなどして日本に入国した人(不法入国)、許可された在留期間を超えて日本国内に滞在している人(不法残留)、許可がないのに就労している人(不法就労) (※)、日本の刑法等で定める犯罪を行い、実刑判決を受けて服役する人たちがいます。
(※)これらの行為は、入管法上の退去を強制する理由となるだけでなく、犯罪として処罰の対象にもなります。
そのようなルールに違反した外国人については、法律に定める手続によって、原則、強制的に国外に退去させることにより、日本に入国・在留する全ての外国人に日本のルールを守っていただくように努めています。 もっとも、退去させるかどうかの判断に際しては、ルール違反の事実のほか、個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮しており、例外的にではありますが、本来退去しなければならない外国人であっても、家族状況等も考慮して、在留を特別に許可する場合があります(在留特別許可)。
その許可がされなかった外国人については、原則どおり、強制的に国外に退去させることになります。
難民の認定
日本は、1981年に「難民の地位に関する条約」(難民条約)、1982年に「難民の地位に関する議定書」に順次加入し、難民認定手続に必要な体制を整え、その後も必要な制度の見直しを行っているところです。
ここでいう「難民」とは、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見という難民条約で定められている5つの理由のいずれかによって、迫害を受けるおそれがある外国人のことです。
日本にいる外国人から難民認定の申請があった場合には、難民であるか否かの審査を行い、難民と認定した場合、原則として定住者(※)の在留資格を許可するなど、難民条約に基づく保護を与えています。
(※)定住者は、いわゆる就労目的の在留資格と異なり、就労先や就労内容に制約はありません。
また、難民には該当しない場合であっても、法務大臣の裁量で、人道上の配慮を理由に、日本への在留を認めることもあります。
入管法の原則
過去の裁判においてもこの外国人が在留する地位についての最高裁判例に見解が述べられています。
最大判昭和53年10月4日
憲法は、日本国内における居住・移転の自由を保障する(22条1項)にとどまり、外国人が本邦に入国し又は在留することについては何ら規定しておらず、国に対し外国人の入国又は在留を許容することを義務付ける規定も存在しない。このことは、国際慣習上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される。したがって、憲法上、外国人は、本邦に入国する自由を保障されていないことはもとより、本邦に在留する権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもなく、入管法に基づく外国人在留制度の枠内においてのみ本邦に在留し得る地位を認められているものと解すべきである。
現行入管法の問題点
今現在、改正について審議されていますがそもそもの現行入管法の問題点は次の3つと言われています。
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送還忌避問題
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収容を巡る諸問題
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紛争避難民などを確実に保護する制度が不十分
送還忌避問題
入管法に定められた退去を強制する理由(退去強制事由)に該当し、日本から退去すべきことになった外国人の多くは、そのまま退去しますが、中には、退去すべきことが確定したにもかかわらず退去を拒む外国人(送還忌避者)もいます。
その数は、令和3年12月末時点で、3,224人(令和2年12月末時点よりも121人増)に達しており、中には、日本で罪を犯し、前科を有する者もいます(※)。
(※)3,224人中1,133人が前科を有し、うち、515人が懲役1年超の実刑前科を有する者です。令和4年12月末時点では、送還忌避者の数は、4,233人まで増加しています(1,009人増)。 現行法下では、次のような事情が、退去を拒む外国人を強制的に退去させる妨げとなっています。
- 難民認定手続中の者は送還が一律停止
現在の入管法では、難民認定手続中の外国人は、申請の回数や理由等を問わず、また、重大な罪を犯した者やテロリスト等であっても、退去させることができません(送還停止効)。
外国人のごく一部ではあるものの、そのことに着目し、難民認定申請を繰り返すことによって、退去を回避しようとする人がいます。 - 退去を拒む自国民の受取を拒否する国の存在
退去を拒む外国人を強制的に退去させるときは、入国警備官が航空機に同乗して本国に連れて行き、本国政府に引き渡す必要があります。
こうした場合、その本国政府は、国際法上の確立した原則として、自国民を受け取る義務があるのですが、ごく一部ではあるものの、退去を拒む自国民の受取を拒否する国があり、現行法下では、退去を拒む者をそのような国に強制的に退去させる手段がありません。 - 送還妨害行為による航空機への搭乗拒否
退去を拒む外国人のごく一部には、本国に送還するための航空機の中で暴れたり、大声を上げたりする人もいます。
そのような外国人については、他の乗客や運航の安全等を確保するため、機長の指示により搭乗拒否されるので、退去させることが物理的に不可能になります。
退去させるかどうかの判断に際しては、個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮し、在留を認めるべき人には在留を認めており(※)、送還忌避者は、それでもなお在留を認められない人であるので、速やかに国外に退去すべきです。
収容を巡る諸問題
現行入管法では、退去すべきことが確定した外国人については、原則として、退去までの間、収容施設に収容することになっています。
そのため、外国人が退去を拒み続け、かつ、難民認定申請を誤用・濫用するなどの事情があると、退去させることができないことにより、収容が長期化しかねません。
収容が長期化すると、収容されている外国人の健康上の問題が生じたり、早期に収容を解除されることを求めた拒食(ハンガーストライキ)や治療拒否など、収容施設内において、様々な問題が生じる原因となりかねません。
現行入管法下で、収容の長期化を防止するには、「仮放免」制度を活用するしかありませんが、この制度は、もともと、健康上の理由等がある場合に一時的に収容を解除する制度であり、逃亡等を防止する手段が十分でありません。
そのため、仮放免された外国人が逃亡する事案も多数発生しており、令和3年12月末時点で、退去すべきことが確定した外国人で、仮放免許可後に逃亡をし、当局から手配中の者は、599人(令和2年12月末時点と比べて184人増)となっています。
なお、速報値ではありますが、令和4年12月末時点では、その数は、1,410人まで増加しています(令和3年12月末時点と比べて811人増)。
収容を巡る諸問題については、2021年に起こったスリランカ人のウィシュマさん死亡事件名古屋出入国在留管理局に収容中のスリランカ国籍の女性、ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリが死亡した事件で、自身の体調不良を訴え続けていたにもかかわらず、適切な治療を施されないまま亡くなったため、出入国在留管理庁の体制そのものが問題視される事態となった事件があります。
紛争避難民などを確実に保護する制度が不十分
難民条約上、「難民」に該当するには、➀人種、➁宗教、➂国籍、➃特定の社会的集団の構成員であること、➄政治的意見のいずれかの理由により迫害を受けるおそれがあることが必要となります。しかし、紛争避難民は、迫害を受けるおそれがある理由が、この5つの理由に必ずしも該当せず、条約上の「難民」に該当しない場合があります。
現在の入管法では、こうした条約上の「難民」ではないものの、「難民」に準じて保護すべき紛争避難民などを確実に保護する制度がありません。
そのため、例えば、我が国では、令和4年3月以降、令和5年2月末までの間に、2,300人余りのウクライナ避難民を受け入れているところ、現状は、人道上の配慮に基づく緊急措置として、法務大臣の裁量により保護している状況にあり、こうした紛争避難民などを一層確実に保護する制度の創設が課題となっています。
今回の改正案について
出入国在留管理庁によると入管法を巡る様々な問題点を解決するために以下の様な案が提示されています。
保護すべき者を確実に保護
補完的保護対象者の認定制度を設置
紛争避難民など、難民条約上の難民ではないものの、難民に準じて保護すべき外国人を「補完的保護対象者」として認定し、保護する手続を設け、補完的保護対象者と認定された者は、難民と同様に安定した在留資格(定住者)で在留できるようにする。
在留特別許可の手続を一層適切なものにします。
在留特別許可の申請手続を創設し、在留特別許可の判断に当たって考慮する事情を法律上明確化します。
在留特別許可がされなかった場合は、その理由を通知します。
難民認定制度の運用を一層適切なものにします。
法改正事項ではありませんが、次のような取組を通じて、難民認定制度の運用を一層適切なものにします。
- 難民の定義をより分かりやすくする取組
難民条約上の難民の定義には、「迫害」等、そのままでは必ずしも具体的意義が明らかではない文言も含まれています。そこで、これまでの日本における実務上の先例や裁判例を踏まえ、UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)発行の文書や諸外国の公表する文書なども参考にしながら、こうした文言の意義について、より具体的に説明するとともに、判断に当たって考慮すべきポイントを整理する取組みを進めていきます。 - 難民の出身国情報を一層充実する取組
難民に当たるかどうかを判断する上で必要となる申請者の出身国情報(本国情勢等)を充実させるため、UNHCR等の関係機関と連携して、一層積極的に収集していきます。 - 職員の調査能力向上のための取組
難民に当たるかどうかの調査を行う当庁職員(難民調査官)に対して、出身国情報の活用方法や調査の方法等に関する研修を行うことなどにより、一層調査能力を高めていきます。
送還忌避問題の解決
難民認定手続中の送還停止効に例外を設けます。
難民認定手続中は一律に送還が停止される現行入管法の規定(送還停止効)を改め、次の者については、難民認定手続中であっても退去させることを可能にします。
■3回目以降の難民認定申請者
■3年以上の実刑に処された者
■テロリスト等
ただし、3回目以降の難民認定申請者でも、難民や補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出すれば、いわば例外の例外として、送還は停止することとします。
強制的に退去させる手段がない外国人に退去を命令する制度を設けます。
退去を拒む外国人のうち、次の者については、強制的に退去させる手段がなく、現行法下では退去させることができないので、これらの者に限って、一定の要件の下で、定めた期限内に日本から退去することを命令する制度を設けます。
■退去を拒む自国民を受け取らない国を送還先とする者
■ 過去に実際に航空機内で送還妨害行為に及んだ者
罰則を設け、命令に従わなかった場合には、刑事罰を科されうるとすることで、退去を拒む上記の者に、自ら帰国するように促します。
そもそも命令の対象を必要最小限に限定しており、送還忌避者一般を処罰するものではありません。
退去すべき外国人に自発的な帰国を促すための措置を講じます。
退去すべき外国人のうち一定の要件に当てはまる者については、日本からの退去後、再び日本に入国できるようになるまでの期間(上陸拒否期間)を短縮します。
これにより、より多くの退去すべき外国人に、自発的に帰国するよう促します。
収容を巡る諸問題の解決
収容に代わる「監理措置」制度を設けます。
親族や知人など、本人の監督等を承諾している者を「監理人」として選び、その監理の下で、逃亡等を防止しつつ、収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度を設けます。
原則収容」である現行入管法の規定を改め、個別事案ごとに、逃亡等のおそれの程度に加え、本人が受ける不利益の程度も考慮した上で、収容の要否を見極めて収容か監理措置かを判断することとします。
監理措置に付された本人や監理人には、必要な事項の届出や報告を求めますが、監理人の負担が重くなりすぎないように、監理人の義務については限定的にします。
収容の長期化を防止するため、収容されている者については、3か月ごとに必要的に収容の要否を見直し、収容の必要がない者は監理措置に移行する仕組みを導入します。
現行の入管制度は、「全件収容主義」などと言われることがありますが、改正法では、上記のように、個別事案ごとに収容か監理措置かを選択することとなり、これにより、「全件収容主義」は抜本的に改められることとなります。
仮放免制度の在り方を見直します。
監理措置制度の創設に伴い、仮放免制度については、本来の制度趣旨どおり、健康上又は人道上の理由等により収容を一時的に解除する措置とし、監理措置との使い分けを明確にします。特に健康上の理由による仮放免請求については、医師の意見を聴くなどして、健康状態に配慮すべきことを法律上明記します。
収容施設における適正な処遇の実施を確保するための措置を講じます。
常勤医師を確保するため、その支障となっている国家公務員法の規定について特例を設け、兼業要件などを緩和します。
その他、収容されている者に対し、3か月ごとに健康診断を実施することや、職員に人権研修を実施することなど、収容施設内における適正な処遇の実施の確保のために必要な規定を整備します。
入管法改正に関する国会での審議動向
さて、皆様は以上の様な入管法改正についてどのように感じられたでしょうか?
国会審議の動向としては、上記の様な改正案に対し、賛成しているのは、自民・公明・維新の会・国民民主党の4党になります。対して、反対の声を上げているのは、立憲民主党・共産党となります。立憲民主党は、難民認定が不十分であり、難民認定に「第三者機関の設置」との声を上げました。立憲民主党は反対の立場から「この法案を廃案にし、制度設計を根幹からやり直すべきだ」と述べましたが、その後、採決が行われ、自民・公明・維新・国民の4党の賛成多数で可決され、本会議でも可決される見込みです。
立憲民主党の立場は、日本という国は従来から難民認定がされずらい国としたうえで、より人権の配慮と難民の受け入れをすべきとの立場です。ですので、3回目以降の難民申請者を強制退去することにも反対の立場です。対して保守層は、保護すべき者と排除すべき者を明確化し、日本の主権を保持するとの考え方になります。
入管法の改悪を叫び、デモ行進などを行っている人もいますが、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎないものであり、最大限尊重はするが、無限に与えられるべきものではないという事を知るべきであると思います。反対を叫ぶ方々にはぜひ、入管の歴史を学ぶ意味で日本加除出版から出ている「実務裁判例 出入国管理及び難民認定法」を読んでいただきたいものです。
入管に関する事件や判例について知りたい方にもお勧めする本ですので興味のある方は、是非購入してみて下さい。







